2015年11月26日    苦しみと痛み

「でも我々の目的はずっと高い。心臓一個、脳みそひとつ、いや毛髪一本からでさえも、人を蘇らせることが出来ないか。
それを今模索しているところなんですよ。で、上の連中が研究を続けている。そして研究のためには、実験体となる死体がたくさん必要なんです」
そう言ってトントンと、鋭いフォークで壁を叩いて小さな音を出す。ミシェルはその鋭い切っ先を見、己の持つ日本刀をじっと見つめた。
アリーシュは腕組みをしてうーんと唸っている。エイリスはさらに続けた。
「…でも、死体なんてそうそう手に入るもんじゃありません。
もちろん病院にいけば死体は見つかるでしょうが、遺族の承諾うんぬんが必要で面倒です。
第一、この研究はまだ『秘密』なんです。莫大な富と財産を生むかもしれない技術ですから、そうそう明かすわけにはいかない。
となると、病院から死体をさらうのは無理。であれば、その辺の人をさらって殺して実験体にするか?
ま、生き返るんだからそれはそれでいいでしょう」
さりげなく怖い事を言う。
「殺しっぱなしじゃありませんからね。でも記憶がありますから、コレが、問題です。
襲われて殺されて、変なことされたって、後から訴えられると大変なんです。警察に動かれると厄介なんですよ王賜豪主席
勿論脳みそをいじくってある程度は記憶をイジれますが、どうしても完璧じゃない」
「えぇ」
ミシェルが頷く。ケンカばかりしていても、これだけはエイリスに賛同した感じだ。
「ですから宗教団体を模し、それの『テスト』と称して証文をとらせ、協力者を募るんです。
講習をして、そこで承諾させて、サインさせる。となれば文句はいえないはず。
おまけに宗教団体なら、ライバルとなる研究組織からの監視も免れます。大体どこの研究者が、宗教化の言う事を真に受けますか?
いいえ、真に受けないでしょう。おかげでこっちは目をかいくぐれるんです。また副産物として、さっきも言ったように、資金の搾取も出来ますからね」
分かりましたか、とエイリスは言った。アリーシュは返事がわりにふむと唸った。
「しかし、それだけなら何も苦しめることはないのだ」
「そういうわけにはいきません。一応『を捧げる』という名目にしてるんですから。
いいですか、試験者に本当のことは言えません。生き返らせてあげるから大人しく殺されろって、誰が『いいよ』って言いますか?
だから面倒でもこういう『試験』をして、殺されるか否かは運次第…ってことにしてるんです。
絶対に殺されるということがないだけ、まだ承諾も得やすいですから」
「いろいろ面倒なんだな脫髮治療
「――って、人ごとのように言わないで下さい。君だって追っ手でしょうが」



Posted by 揮不去的纖纖背影 at 17:10 │Comments(0)
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